植物工場の工場環境や事業参入にあたって確認しなければないこと、事業展開や展望についてまとめてきました。今回が植物工場に関する記事の最終回です。
最終回の内容は、流通です。
これまでの記事での述べてきたとおり、イニシャルコスト(初期投資額)は億単位のお金を必要とします。そして、さらに変動費となる電力、各種肥料や材料費、人件費、梱包費、管理費、また技術に関するメンテナンスや空調などの費用が発生します。
いかにして工場稼働を黒字に転換させるか、どのタイミングで実現可能となるかの事業計画がもちろん大切なのですが、計画よりももっと大事なことがあります。
販売先の確保です。
植物工場への事業参入は、
販売ルートの新規開拓と同義
どれだけ最先端の技術で設備を投資しても、だれだけの生産力を有しても販売先がないことには何の意味もありません。
植物工場は建設すれば野菜が売れるものではありません。
まず、野菜の販売ルートが、流通の仕組みがどのようなものであるかを理解して事業参入しなければ、撤退や倒産したほかの企業と同じ道をたどってしまいます。
現在の野菜の流通の仕組み
今現在、野菜がどのような流通経路を経て消費者に届いているかをおさらいです。
少し古い資料となりますが、農林水産省の資料をお借りしましょう。以下のフローをご覧ください。
オーソドックスな農産物流通である系統出荷は、生産者が農産物を農協に出荷するところから始まります。そして卸売市場の卸・仲卸を経て小売店、消費者へと流れます。
ただ、野菜・果実の流通は、卸売市場に加え、量販店・食品メーカー・加工業務事業者などの実需者が市場を介さず購入するルートもあり、多様化がすすんでいます。また、ECサイトなどの発展により、生産者が直接消費者へ配送するようなマーケット(EC-CtoCマーケット)もひらかれており、販売ルートを整理すると、非常に多くの販売ルートがあることがわかりますね。
流通過程における植物工場の付加価値が使えない
先の説明のとおり、生産された野菜の流通は卸売市場へと流通していきます。
そのとき、植物工場で生産された野菜は、他の露地物野菜と比べた場合に、どの程度の付加価値があると思いますか?
露地物には植物工場にはない、旬、というものがあります。旬の季節には、当然のことながら値段は下がります。価格面において「植物工場」で生産されたから、という理由で高い価格で交渉したところで、消費者には安い方に流れます。
つまり、旬の季節に植物工場で生産したとはいえ何かしらの付加価値を価格面での交渉には使えないのです。
野菜の在庫は保管できない
通常の工場で生産される工業品と、植物工場で生産される野菜の決定的な違いは、保管です。
植物工場で生産された野菜は、収穫後にすぐ出荷しなければ処分することとなります。工業品の場合は在庫を補完することができますが、野菜はそのようにはなりません。
つまり、農産物は生産(収穫)から消費者販売までのリードタイムが短いがゆえに、収穫段階で販売先が確保されていないようでは致命傷になってしまうのです。
たとえば、2012年6月に太陽光利用型植物工場を建設した宮城県の農業法人「さんいちファーム」は、2015年1月に東京地裁に自己破産を申請しました。自己破産申請の理由として、外食業者やスーパーや個人でのネット販売などを行うことで売上高を見込んでいたが、販売先の拡大に失敗し債務超過に陥り倒産となりました。
このように、生産した野菜は在庫とならないように計画的に販路を拡大し、収穫した野菜が出荷できる販路を常に確保し続ける継続的な営業活動が必要なのです。
規格外の野菜を流通させない努力
一時期(今もそうですが)、形の悪い「規格外品」の流通に関する情報がネット上に流れました。内容としては、年間に相当数発生する規格外の野菜を市場に出回る価格から2~3割程度安く仕入れて、ジュースや惣菜など、素材そのままで流通させるのではなく、加工品利用による流通を拡大させる、という事業モデルです。
もちろん、それはそれで問題はありません。
しかし、規格外品の流通をベースとするような販売形態を主としてはいけない、という話です。
規格外品とはいえ、そこにかかる人件費はもとよりその他の工場稼働のためのランニングコストが発生しているのは既述のとおりです。また、億単位といわれるイニシャルコストを如何にして回収するか、という問題もあります。
そのような状況の中で、規格外品を流通ベースとするとどうなるか。
単純に2~3割の粗利の減額となります。これは売上高に直結した大きな痛手になることは言わずもがな、です。
見た目が悪くても味は変わらない野菜であれば、安く手に入ることで消費者が大喜びすることは自明です。しかし、しかしです。
割引きされた規格外品が流通してしまうことで、本来の正規の規格品が売れ残る事象がおきてしまったら、それこそ利益がどこからも得られなくなります。
これは何も規格外品に限った話ではないのです。
企業が経営を続けるためには、適正な価格で販売し、事業継続のための正当な利益が必要です。
そのためには安価で提供する規格外品ではなく、適正な価格で販売可能な野菜を流通させる必要があるのです。
如何でしょうか。
植物工場の成り立ち、工場環境などを説明してきました。
植物工場に関する記事は本記事を最後としますが、野菜を大量に安定して供給することは、農家だけでなく、食糧確保の観点から国家規模で重要な事業となる可能性が十分にある産業です。
今後さらに注目を浴び、将来性のある分野であることが予想されるので、工場自体も今後全国で増えていくことでしょう。
農業に興味のある方は、植物工場も視野に様々な方法を模索して事業参入していただければと思います。
本章では、植物工場の成り立ちから運営に必要な基礎知識や技術、活用する際の課題といった実用面までをまとめてきました。どうぞ、参考にしていただければと思います。
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